眠雪
雪は眠る春を待ちながら眠る
其の白きを横たえて
其の白きに全ての穢れを包み込んで
雪は眠る
軽やかな雪は粉となり道を街を山を滑る
湿った雪は半分透明で人を獣を魚を凍らす
雪は眠る
重苦しい悪夢にうなされたときは泣き
春間近い吉無に微笑むときはさらさら
時折目覚めては冬の名残を感じて眠る
雪は寒さが好きで嫌い
寒くなくては雨と変じ
生暖かければ気が変じ
消え行く運命を感じ取り泣く
涙は氷柱となり家々に垂れる
目覚めれば狂い
目覚めねば死す
斯様に雪は眠る
静かに静かに音を汚れを吸収して眠る
ふと雪達の声が聞こえた
人間は皆疲れているね
そうだね
僕達に安らぎと脅威を感じるね
だけど僕達は休むため降るのではない
僕達は僕達の存在を証に振るのだ
音や汚れを吸い込むためでもない
儚い命の雪の魂を叫びに降るのだ
聞けよ人間達
獣や魚や鳥なら知っていることを
僕らは優しいものじゃない
僕らは沢山の生命を殺した
僕らは数多の草木を凍らせた
獣は僕らに怯え冬篭もりする
鳥は僕らを嫌ったり好んだり
魚も僕らに従って生き場所を変える
人は逆らう
火をくべ電気を通しガスを撒き散らし僕ら自然に逆らい生きる
僕らは知っている
僕らのために僕ら以外の命が沢山散って行ったことを自覚する
人間は其の日屠った命すら忘れる
息絶えていった命の重さに上下をつける
鎮魂のように僕らは屍骸を覆い隠す
哀悼のように僕らは霊魂を包み込む
人間は何をするか
いつかきっと僕ら雪の如く静かにひっそりと
人間達も眠る日が来るだろう
そうしたら僕等が綺麗にしてあげよう
真っ白に穢れなき純白に世界を染め上げよう
其れまでは眠ろう
僕らの本当の使命はもうすぐ其処だ
この記事を評価する
0 Comments:
Post a Comment
<< Home