Thursday, January 12, 2006

ぶんぶく茶釜~弐

そうお福はね
遊女になったのさ
遊郭では美しいものが勝つだろ
だから狸みたいな顔したお福はそりゃもう馬鹿にされちまった
狸だから客だってつきゃしない
無駄飯食いってっ扱き使われて
肌は罅割れ化粧も乗らないんでもっともっと馬鹿にされたのさ
だけどお福はお金が欲しかった
愛しい善吉さんと幸三のために
病んでる二人の薬を買うために
其処でお福ははたと気がついた
狐顔のご隠居が言った褒め言葉
--御前の下の口は良く絞まる
お福は芸子を真似て客を盗った
如何にして?
其れは当然あそこの絞まりでさ
如何したか?
其処の囲炉裏の茶釜をご覧さい
ぶくぶく煮え立つ茶釜に紐掛け下の口から吊らして見せたのさ
湯の沸いた茶釜をあそこで吊り
目の前で熱いお茶を客に振舞う
客は喜んだよ
そんなに絞まるなら極楽気分だ
来る客はどんどん増えていった
お福は決して自分で使わないで全部を善吉と幸へ送ったよ
自分はこんなに裕福だから安心してお医者に掛かってって
切ないねえ
しかしお福に客を盗られちまい
姐さん達は黙っちゃおられまい
お福を遊女部屋へ連れてってね
煮え立つ茶釜に熱い鉄紐を通し
さあ
あたい等にもやってみろと
お福を責めた
そんな熱いのやったら駄目になっちゃうよぉ
お福は商売道具を守ろうとして暴れて抗った
姐さん達は無理強いし揉み合い煮え滾る湯がお福の顔を舐めた
もとより狸面のお福の顔の左は無残に崩れた
目も煮えてね
目暗になった
当然遊郭じゃ飼っておけないよ
給金の半分だけ与えてぽい捨て
お福はたった一人で冬の川原に茅を葺いてね
自分を煮た茶釜を下の口で吊り
師走の男共に見せて招き吊った
お福は本当の売女になったのさ
但し顔はぼろい頭巾で隠してね
お兄さん寄ってかない
あたしの此処凄いぜよ
男はお福の見事な芸に惹かれて
茅の下筵の上でお福と交わった
安値で極楽を味わった客達はね
お福を茶釜頭巾の天女って呼び
代わる代わる訪れたさ
客足は途絶えなかった
以前の半値にも足らない小銭で
客はお福を弄んで
お福は金を送った
善吉と幸のために
でも節分の日
とうとうお福の目暗が客にばれちまった
無銭で逃げむとした男を捕まえて
お福は言った
あんただけ無料でやらせてやる
だから他の男に言うんじゃない
男はお福の素顔を見て蒼白でさ
分かったを繰り返し逃げてった
其れを鳥瞰する女が一人いたよ
そう
お福に煮え湯をぶっ掛けた遊郭の姐さん
其の女は美しく一番人気だった
そして晴れて身請けが決まった
だからお外へ買い物に出たのさ
其の帰りにお福の成れの果てを見てしまった
姐さんは遊郭へ帰り
身請け人の檀那さんに頼んだよ
お里帰りをね
驚く檀那さんに言い返したこと
自分をでなくお福の里帰り
春近い川原の昼間に立派な成りの丁稚がやってきて
お福さん里帰りだよ
さあさ此れに着替え
身支度をして出発だ
目暗のお福はがんと首を振った
あたいは稼がなきゃいけないの
帰るお里など何処にも無いのさ
本当は帰りたかった
善吉と幸の住む家へ
其の願いは成就した
姐さん檀那さんの粋な計らいで
お福は裕福な家の愛妾の振りで馬の背に揺られてね
僅か一年前を思った
懐かしい匂いがした
懐かしい声を聞いた
お福お福じゃないか
如何したんだ其の顔
嗚呼構わない
お帰りそうか
お暇が出たか
ゆっくりしておいき
御前のお陰で俺達は医者に掛かって
ほらすっかり元気だから
もう奉公に出るなよ
このまま暮らそうな
俺達と一緒に此処で
愛としい声は優しくお福の弱り果てた心臓を止めた
お福は片方の口を引き攣らせて確かに笑った
そして死んだ
此れが本当のぶんぶく茶釜の逸話だよ
悲しいねえ
切ないねえ
女ってのは

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