Thursday, January 12, 2006

ぶんぶく茶釜~壱

昔々善吉と幸って夫婦が山の村に住んでいた
猟師の善吉は或る日
山で狸に握り飯を盗まれた
次の日も次の日もだ
善吉は優しかったが流石に堪えかねてね
そうっと握り飯を見張った
其処に出てきたのは何と狸でなく人の子
髪はぼうぼう服は木の皮の汚らしいけど女の子だった
哀れんだ善吉は連れて帰り
言葉を教えて身形を整えて
みんなで幸せになれるよう願いを込めて福と名づけた
善吉に幸に福
見るだに幸多くで穏やかで善い暮らし振りだったのさ
あの日善吉が熊に殴られるまでは
善吉は重傷で死ぬ寸前でね
心配が過ぎたのか身籠っていた幸は子を流し
夫婦揃って重篤に陥ったよ
お福は必死に医者を探した
だけど医者は沢山の金を要求した
善吉達にそんな蓄えは無い
泣いて帰るお福に目を付けた男が一人おった
其の男は人買い且つ人売り
幼ければ顔など構わないと
幼子漁る狐面のご隠居から頼まれていた物を見つけた
人買いはお福に言い聞かす
お前の身一つで金が儲かるのだ
医者と薬を買う沢山の金が入る
お福は何も分からず肯いた
幼いお福に醜い欲望は予期し得なかった
善吉と幸は止める力も術も無くってね
ただお福の身を案じて祈り
お福の身代金で体を治した
お福を待っていた欲望とは
醜く浅ましくおぞましい欲
胸の膨らみも拙い女の体を
狐面した爺は貪り甚振った
男を知らぬ無垢な幼児たるお福の下の口は締りが良く
ご隠居は大いに褒め称えて
昼となく夜となく責め立て
時には後ろ手に縛り吊るし
時には裂けるほど股を開き突いては漏らしまた突いて
お福の虜になった
見ておれないのがご隠居の女房婆さ
婆と雖も女は女さ
亭主の不倫に堪りかねてね
ご隠居が寝てる間にお福をあの人買いに売っちまった
此れ以上辛くはないと思い
お福は大人しく従った
そして着いたのは遊郭
綺麗な姐さんが溢れて婀娜な声でお客を引く華やかで悲しい地獄さ
お福は着物を宛がわれ
着いた晩から早速にと店に出た
ところが客は笑うばかりで
一向にお福を抱こうとせず金も払わず文句ばかり付け帰っちまう
当たり前さ
何たってお福は狸顔だから
あどけない垂れ目の丸顔は可愛い醜女
金払って抱く気にさせない可愛い醜女
お福は役立たずの遊女として下働きに追われた
下働きはお福を楽にしたが金は全く入らない
其れでは困るのだ
お福は善吉と幸に薬代を送りたいし
一人前の女としてやっていきたかったんだよ
健気で切ないねえ
お福は洗い場で扱き使われ真摯に思ったんだ
愛しい善吉に
優しい幸に
恩返ししたい
自分のいいところを探した
何も無かった
見つからない
思い詰めたお福は思い付く
地獄だったご隠居との日々
唯一褒められたのは下の口
お福は芸子さんを見習った
芸が身を助けるよう覚えた
やがて此れが
悲しく終わる昔語りの始まりとなるなど
誰も知らなかった
福も知らなかった
でも第二幕は無情に始まる
容赦なくお福を責め立てる
さて一旦幕を閉じて
悲劇の予感をどうぞ弁当と一緒に味わい
次の幕上げを待ちませう

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