Thursday, January 12, 2006

終練

今まで幾つの命を奪ったか
踏み付けた草花
叩き潰した蝿蚊
吸い込み溶かす見えない微生物
其れ等命と我と
何が異なるのか
何も変わらない
質量の差だけだ
沈思するに悲傷
黙考すれど感傷
無意味な思考は宙に漂い消える
受苦からの離脱
煉獄にての浄化
日常は罪に満ち
老いて行く我は無益に秋を過ぐ
不意に鎮まる虫の声にいっそうの静寂感じて
其の無音の真闇に居りて
一閃の刃落ちる風切り音と
流血生ぬるい液体が胸伝う
絶叫せし声闇に吸われ
異界の扉が開く
展開する光景は
物々の影で企む
誰が悪意の戯れ
瞳を凝らせども目を閉じるとも脳裏に焼き付く
一片の骨の白
あれは父だった
子供の頃の合図
釣りに行く符合
嗚呼父が帰った
死んだのは他人
白い骨は石ころ
父がああなる筈が無い
パパ早く行こう
秋の海は豊漁で今晩鯖を煮よう
見えない父が口笛吹く
出発の合図
二人の秘密
さあ行こう
お手繋いで車に乗って
楽しい海へ静かな海へ
終わらない夢が練り混ざり
練って捻って捩れて千切れ伸ばした手に蟋蟀が止まる
奴の爪が肌に食い込む痛み
現実が夢を切り裂き
虫どもが一斉に鳴く
激しい音を立て扉が閉まる
楽しい夢は辛辣な今に変ず
もういいかい
まあだだよ
もういいね
まだ駄目だ
死ねないわたしは生き延び
今日も何かを殺しては屠る
ねえパパ早くつれってって
この世はこうも暗くて辛い
早く抱っこしてお手々繋いで一緒に寝て
まだだよ
まだだ
まだ
生きろ
生き抜け
何を殺せど自分は殺すな
父が一番厳しい
死ねないわたしの終練は
確かに修錬習練の連続だ
終わらない生は無いから
死を急がずに生を噛み締め
何かを殺して生きるだけだ

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