終練
今まで幾つの命を奪ったか踏み付けた草花
叩き潰した蝿蚊
吸い込み溶かす見えない微生物
其れ等命と我と
何が異なるのか
何も変わらない
質量の差だけだ
沈思するに悲傷
黙考すれど感傷
無意味な思考は宙に漂い消える
受苦からの離脱
煉獄にての浄化
日常は罪に満ち
老いて行く我は無益に秋を過ぐ
不意に鎮まる虫の声にいっそうの静寂感じて
其の無音の真闇に居りて
一閃の刃落ちる風切り音と
流血生ぬるい液体が胸伝う
絶叫せし声闇に吸われ
異界の扉が開く
展開する光景は
物々の影で企む
誰が悪意の戯れ
瞳を凝らせども目を閉じるとも脳裏に焼き付く
一片の骨の白
あれは父だった
子供の頃の合図
釣りに行く符合
嗚呼父が帰った
死んだのは他人
白い骨は石ころ
父がああなる筈が無い
パパ早く行こう
秋の海は豊漁で今晩鯖を煮よう
見えない父が口笛吹く
出発の合図
二人の秘密
さあ行こう
お手繋いで車に乗って
楽しい海へ静かな海へ
終わらない夢が練り混ざり
練って捻って捩れて千切れ伸ばした手に蟋蟀が止まる
奴の爪が肌に食い込む痛み
現実が夢を切り裂き
虫どもが一斉に鳴く
激しい音を立て扉が閉まる
楽しい夢は辛辣な今に変ず
もういいかい
まあだだよ
もういいね
まだ駄目だ
死ねないわたしは生き延び
今日も何かを殺しては屠る
ねえパパ早くつれってって
この世はこうも暗くて辛い
早く抱っこしてお手々繋いで一緒に寝て
まだだよ
まだだ
まだ
生きろ
生き抜け
何を殺せど自分は殺すな
父が一番厳しい
死ねないわたしの終練は
確かに修錬習練の連続だ
終わらない生は無いから
死を急がずに生を噛み締め
何かを殺して生きるだけだ
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