聖体拝領
あなたは不治の病だった現代医学じゃ手に負えない
仮病という名の病
どんな治療も功を奏さず
あなたは仮病を真の病に変えようと
必死にリタリンやハルシオンを飲み
身体中自分で切り刻み
二階から飛び降りて脚を折り
殺虫スプレーを喉奥に噴射し
盗んだ濃硫酸で顔面を洗った
あなたなりの戦いだったのね
初めて病院へ行ったとき
検査後に言われた言葉があなたを雁字搦めにした
何カ悩ミハ有リマセンカ
あの時壊れちゃったのね
長くて辛い戦いだったね
やっと終わったね
あなたは仮病に勝ったよ
誰もあなたを責めないよ
皆自分自身を責めてるよ
あなたに遺して逝かれた
ご親族もご友人も知人も
わたしは自分を責めない
あなたが嫌がってたから
あなたは誰かを傷付けるのがとても怖かったんだよね
其方の景色は如何ですか
彼岸は綺麗な場所ですか
此岸では皆が泣いてます
ぐちゃぐちゃのあなたを
警察も葬儀屋も見せてくれなかった
だからお通夜が終わり人が去った後
残ったわたしはそっと棺桶を開けて
あなたの姿を直視した
白帷子を肌蹴て
ステープラーで継ぎ接ぎされた胸を
携帯する爪切りで少しだけ抉ったよ
もう血は出ない
弾力無く固まった肉を一切れ分
わたし口に含み味わい噛まずに嚥下した
お返しにわたしの肘の内側を切って
綿の詰まったあなたの口に入れたよ
此れでいいね
ずっと一緒だ
死が二人を別つとも
火があなた焼くとも
間に合った聖体拝領
輸血より濃い一体感
あなたは少ししょっぱくて酸味があって不味かったよ
多分あなたも同じ事言うね
でも美味しかったって
お葬式は手早く済んだ
見せられない遺体ではご焼香の時間も少ない
火葬場へ行く途中陽射が眩しかった
お迎えかな
だといいね
二時間待って見たあなたは
手足の位置が出鱈目になり
くすんだ灰より多くの針に埋まってた
継ぎ合わせる無情で無機質な
ステープラーの針の山
遺灰より多くの針の山
あなたって本当に見られるのが嫌いだったのね
最後の最後まで見せられない
死んだあなたを何時かカメラで写そうとして
カメラ付きケータイもってる
あなたは今のところ写らない
明日は写るかもなんて思って
やっぱりケータイもっている
寝るときも枕もとに
歩くときはバッグに
何処でもOK
何時でもOK
さあ出てきて
できれば綺麗だったあなたの姿で
爆ぜた柘榴のようになった
あなたではなくね
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