Thursday, January 12, 2006

聖体拝領

あなたは不治の病だった
現代医学じゃ手に負えない
仮病という名の病
どんな治療も功を奏さず
あなたは仮病を真の病に変えようと
必死にリタリンやハルシオンを飲み
身体中自分で切り刻み
二階から飛び降りて脚を折り
殺虫スプレーを喉奥に噴射し
盗んだ濃硫酸で顔面を洗った
あなたなりの戦いだったのね
初めて病院へ行ったとき
検査後に言われた言葉があなたを雁字搦めにした
何カ悩ミハ有リマセンカ
あの時壊れちゃったのね
長くて辛い戦いだったね
やっと終わったね
あなたは仮病に勝ったよ
誰もあなたを責めないよ
皆自分自身を責めてるよ
あなたに遺して逝かれた
ご親族もご友人も知人も
わたしは自分を責めない
あなたが嫌がってたから
あなたは誰かを傷付けるのがとても怖かったんだよね
其方の景色は如何ですか
彼岸は綺麗な場所ですか
此岸では皆が泣いてます
ぐちゃぐちゃのあなたを
警察も葬儀屋も見せてくれなかった
だからお通夜が終わり人が去った後
残ったわたしはそっと棺桶を開けて
あなたの姿を直視した
白帷子を肌蹴て
ステープラーで継ぎ接ぎされた胸を
携帯する爪切りで少しだけ抉ったよ
もう血は出ない
弾力無く固まった肉を一切れ分
わたし口に含み味わい噛まずに嚥下した
お返しにわたしの肘の内側を切って
綿の詰まったあなたの口に入れたよ
此れでいいね
ずっと一緒だ
死が二人を別つとも
火があなた焼くとも
間に合った聖体拝領
輸血より濃い一体感
あなたは少ししょっぱくて酸味があって不味かったよ
多分あなたも同じ事言うね
でも美味しかったって
お葬式は手早く済んだ
見せられない遺体ではご焼香の時間も少ない
火葬場へ行く途中陽射が眩しかった
お迎えかな
だといいね
二時間待って見たあなたは
手足の位置が出鱈目になり
くすんだ灰より多くの針に埋まってた
継ぎ合わせる無情で無機質な
ステープラーの針の山
遺灰より多くの針の山
あなたって本当に見られるのが嫌いだったのね
最後の最後まで見せられない
死んだあなたを何時かカメラで写そうとして
カメラ付きケータイもってる
あなたは今のところ写らない
明日は写るかもなんて思って
やっぱりケータイもっている
寝るときも枕もとに
歩くときはバッグに
何処でもOK
何時でもOK
さあ出てきて
できれば綺麗だったあなたの姿で
爆ぜた柘榴のようになった
あなたではなくね

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