楽園
此処は何処だろうなんて綺麗だろう
霧でも靄でもなく霞が立ち込めてて
暮暗か暁か夕陽か
眩し過ぎない光り
なんてことだろう
思い描いた全てが此処に今実現されてる
絶え間なく流れる恋歌
囁きはいつも愛を語り
手と手は繋がれ握られ
寄り添うのは老若男女
此処には悩みが欠片も無い
嗚呼楽園だ極楽だエデンだ
踏みしめる土はクッキーで
河にはミルクが涛々と流れ
石はどれもチョコやお菓子
雲はマシュマロで甘く香り
木にはあらゆる果樹が実る
鳥や獣や魚さえも愛を告げ
生まれる赤ん坊は羽を持つ
此処は何処だろう
――夢墓場で御座います
入り口の看板に描かれていたままの女が一人立ってた
――貴女寸早いですよぉ
看板を女に似せたのか女が看板に似たのか
どっちにせよ看板に嘘は無い
細身の女が続ける
――わたしが女将でして
――此処がお気に召して
――でもねえお断りかな
――貴女若過ぎますもの
わたしは此処に居られないのですか
――閻魔様に叱られます
わたし全然意味が分かりませんけど
――知らぬが花でしょう
此処は何処ですか
――言い置きました通り
――夢墓場で御座います
わたしはもうずっと此処に居たいの
――皆そう仰いますけど
――必ず出て行かれます
――ご自分の意思でねえ
わたしが一緒に居てあげる居させて
――否誤解無さいますな
――寂しくはありません
――独りは慣れています
わたし追い出すのどうしていけないの
――御覧なさいましほら
――貴女此れではねほら
――お嫌じゃありません
女が見せた水鏡
其処に映るわたしの顔は
嫌だ――
――そうでしょうよねえ
――ではお戻りは彼方へ
――二度と来ぬようにと
――遥かにお祈りします
やっと目が覚めた
白い天井は罅割れカーテンは半透明
映画やTVと違う現実だ
父母が泣く
医者が診る
大丈夫言ったのは
誰?
親?
医者?
看護師?
あの女将?
生き延びた感激は無い
死に損ねた脱力が有る
そうだった
わたし学校で首を吊って意識が途切れてて
あの場所へ行った
でも追い返された
夢墓場って何処?
二度と来るなって何故?
遥かに祈るって何を?
わたしが若いから駄目なの?
もう一生分わたし苦しんだよ
皆から苛められたし
でも無視よりは良かったな
苛められる時間だけは
わたしのこと構ってくれるから
無視はキツかったよな
生きながら幽霊だもん
だから絶望して
そして首吊って
死に損ねて生き延びた
生き恥曝しまた苛められる
そっかそれでいいのか
皆わたしを見てくれる
悪口陰口叩いてくれる
わたしを無視しないでわたしを苛めてくれる
女将さんありがとうね
お祈りは通じたみたい
もう少し経ったときにまたお邪魔します
其の時は居させてね
あの楽園に
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