お帰りなさいませ
今日一日今一時を喜び楽しみ過ごす其れは寂滅為楽を説くあなた様には罪悪でありましょう
喜怒哀楽を愛すわたくしには祝福でありまするが
世捨て
人捨て
山へ逃げた身は
此が草庵似合います
けれど時折吹き来る秋の風が
山奥の侘しさ曝して
世間様に申し上げる
其処は賑わしいかと
此処は寂漠たるかと
彼方は艶や楽しかと
其方は婀娜なめりと
此方は苦悩満つだけ
羨むべきは何方なるか
私には分かりませぬ
過ぎにし方も
今在る現世も
未だ来ぬ方も
総じて愛しく妄執に憑かれておりまする
我が身をば恥と思われるか
あなたは手文も寄越さずに
我一人此処にてお待ち申し上げますから
如何な姿にてもお帰り下さいませ
なふくつみ給いそ
ゆめ悲しみ給わず
若しお迷いならばお迎えに参ります
嗚呼あなた
斯様な無様を笑ってください
早笑って掻き抱いてください
きつくきつくもう二度と離れぬよう
時代にても放せぬよう
添い遂げましょう
あなたお早いお帰りを
この身が朽ちてしまいます
この世が終えてしまいます
早く早く
お帰りなさいませ
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