Friday, January 13, 2006

血の沼~壱

大正の終わり昭和の幕開け
一人の女の子が生まれたよ
潤む瞳が大きくて
肌は陶器の如く白
朱に唇は紅梅の蕾
其れは美しい赤子だったよ
貞節を重んじ親は名付けた
昔語りに現れる娘
弟のため死んだ姉
安寿と
三歳のお宮参りでは
異人さんが其の可愛さに惹かれ抱かせてくれと母親にせがんだ
五歳の参宮では
父が盗まれぬようにとしか抱き締め決して傍から離さなんだそうな
七歳の祝いの膳では
兄御が親戚一同から死守すべく御手々繋いで膝に載せて守った
干支一廻した頃には
安寿は咲き匂うほど可愛らしく
ご近所の男共は早々に騒いだよ
それはもう筆舌尽くせぬ美しさ
安寿の立つ付近一尺八方四方は水墨画の世界に変じた
有る色は赤ばかり
墨を流した黒髪は漆黒
大きなお目目は紫染み
胡頽の御口は甘い香り
兄様を慕って纏い付く
其の様がまた愛惜しく
誰彼も無しに愛苦しく
誰も妹の変異に気付かなかんだ
妹は兄慕う余り娘になれず
父は娘愛す余り男となって
正気だった母と兄を狂いに巻き込む悲喜劇が幕開け
柿落としは娘の初潮で
巻く引きは誰もいない
泥沼に蓮華が咲いたよ
萎れを知らぬ泥の華は斯くも妖しく浅ましく
さあ続きは
おあんさまに譲ろう
駄目かい無理かい?
ならお女中にお話して貰いましょう
始まり始まり
悲喜劇が廻り巡るは狂気の螺旋
戦も燃やせなかった絆
神風にも戦がぬ憎しみ
それでも消えない愛情
何処へ行くやらこの人等
さあさあお聞き心して
幕が開けばもう下りないから
お駄賃は余分に貰っておいで
明日になっても続く紙芝居さ
一年経っても終わらぬ惨劇さ
十年過ぎても残る血腥さだよ
魘されず眠る夜を
手放す勇気のあるものだけおいでよ
此処へ
紙芝居だよ練り飴だよ
カランコロンと始まりの鐘が鳴る
もう始まった
初めの一歩は
もう踏んだ
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