破壊
大阪へ出張したら昔馴染みの建物が白いビニールに覆われていた
取り壊されるのだ
シャンデリアとモザイク画の在る異国情緒漂う場所だった
行きは出迎え
帰りは見送る
一人憩う場所でもあった
地下から地上へ上がると
セピアの空間が足の疲れを癒し
弧を成す天井は端々まで植物文様に綾どられ
シャンデリアがきらめいていた
東には
太陽を背にした明け方の雲と
鴉猛る龍とペガサスが従う
西には
濡れた夜の月に掛かる群雲と
兎有翼の獅子と鳳凰が従う
下には
赤い花咲く蔦模様
嘗てのコンコースの名残
アーチ描く通路抜ければゴシックステンドグラス
日の光と月の光を彩った
余りの美しさは崩壊を予感させ
近代的で無機質な機械仕掛けに変わってゆく
使うだけ使ってあっさりぶち壊す人間
壊されたものはものかこころか
ものは殺されるのだ
こころは死ぬのだ
記憶だけが置き去りにされて
懐かしさという虚無感が漂う
懐かしむのは失った証拠だ
懐かしむほど失ったものは多く
大きい建造物にはこころが宿る
風や雨や野分の甚振りを一身に受けて人々を守る
そんな苦痛に耐えてまで
住まうものを守る建物にこころが無いはずは無い
表現できないだけ空間に包まれれば
痛いほどに伝わる慈しみ
造ったから壊す権利が在ると
感謝を忘れてきた人間を
尚も建造物は守るけれど
其の重責も其の庇護も其の人間も
何処か此処か既に終焉を潜めている
手応えの在る予感
凶兆は其処に
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