時の流れに逆らって
精神の異常を告知されて十一回目の秋が終わる
脳髄の障害を宣告されて
五回目の冬が早や来る
振り返り
積み上げた時間の塵山を見る
其の見る瞬間も
既にもう過去
記憶が欠落していくこの病気
治る見込みは一生無いらしい
身体が覚えたことだけは何ととかこなせるけれど
今朝の出来事は抜け落ち
二度と再び戻ってこない
この悲しみは青より赤に近い怒りに似た悲しみ
現実と受け止めるには辛過ぎる諦めに近い悲しみ
現実は逃げても追って来ない
逃げれば其れまで
もう現実はわたしを見捨てた
自分で拾うよりない
過去の時
忘れたくない
自分でいたい
どんな死に方でもいいけれど最後まで自分で在り続けたい
人として最小の願いも
まるで老いし人の如く
願った事実を忘れていく
祈った感情を忘れていく
遠い所から帰ったように
午睡を破り遠流の罪に処せられたように
わたし誰でもなくなる
こんな午後は胸の隙間に初冬の風が凍みて
旅姿装う
一人知っていたはずのやっていたはずの事々を
拾っては燃やし尽くす
人を追い
時を追い
事を追い
風を追う
赤蜻蛉も力尽きる
わたしも何時にか同じ
目覚めぬよう祈り
一人で寝る
独りで眠る
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