不知世
青春の特権は若さゆえ過つ無知の特権だそう一言で片付ける三島由紀夫が嫌いだった
或る作家の作品に因れば
彼は将門に憑かれていた
然であんな死に方をした
切腹
彼はどんな痛みを感じた
彼は喜びさえ感じていた
彼は絶望ではなく希望で
自決を選んだ
其れも無知である特権か
仮面の告白への自己批判
ゲーテを補い
人間には知らないことだけが役に立つので
知ってしまったことは無益に過ぎぬ
そう彼も思っただろうか
無知なればこそ為し得ることがこの世には沢山あった
過去形なのは
わたしがもう知ってしまったから
わたしはこの齢で知り過ぎたから
無知だった頃の幸せは
不知だった過ち悟らせ
知った被りの大人にさせた
もう戻れない
彼の幸福だった頃
世の定めを知らず
何だってやれた頃
世の常識を知って
何もできずにいる現在の贅沢な不幸
人間が不知火に戻れないように
わたしも常識に縛られ動けない
0 Comments:
Post a Comment
<< Home