Thursday, January 12, 2006

不知世

青春の特権は若さゆえ過つ無知の特権だ
そう一言で片付ける三島由紀夫が嫌いだった
或る作家の作品に因れば
彼は将門に憑かれていた
然であんな死に方をした
切腹
彼はどんな痛みを感じた
彼は喜びさえ感じていた
彼は絶望ではなく希望で
自決を選んだ
其れも無知である特権か
仮面の告白への自己批判
ゲーテを補い
人間には知らないことだけが役に立つので
知ってしまったことは無益に過ぎぬ
そう彼も思っただろうか
無知なればこそ為し得ることがこの世には沢山あった
過去形なのは
わたしがもう知ってしまったから
わたしはこの齢で知り過ぎたから
無知だった頃の幸せは
不知だった過ち悟らせ
知った被りの大人にさせた
もう戻れない
彼の幸福だった頃
世の定めを知らず
何だってやれた頃
世の常識を知って
何もできずにいる現在の贅沢な不幸
人間が不知火に戻れないように
わたしも常識に縛られ動けない

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