Tuesday, January 17, 2006

wmrp不徳の致す処により

六十数年前の盂蘭盆会
日本に熱風が吹き荒れた
一人の女の怨嗟は塵になり天空に舞って
一人の男の亡骸を日本全土の灰と混ぜて
恨み節歌う声は絶叫した
カエセかえせ返せ
誰かあたしのあの人を返して
どうかあたしの夫を帰らせて
何故にあの人は空高く散った
答えはあった
朕と自称する或る男が答えた
不徳ノ致ス処ニヨリ……
一人の男の不徳が
どれだけの男を殺したか
幾人の女を自死させたか
何人の子を飢えさせたか
数知れぬ老人を焼いたか
其の答えはたったの一言其の根源は一握りの軍師
取り返せない犠牲をただ一言で片付けた
不徳の致す処により
殺された人々は屠られた動物は煮られた魚類は許し安らぎ逝くだろうか
少なくとも一人の女は許さなかった
未だ残る火傷痕
燃えて失った髪
もげて落ちた指
そして散った夫
どれ一つ彼女には片付かない戦の証
決して許さぬと言い切る妻だった女
其れはわたしの祖母
彼女は神も仏も信じない
神を名乗った天皇を許さない
死ねと言い放つ
血絶えろと呪う
皇居の方角へ向い唾棄し先祖の墓をも蹴り飛ばす
戦後と名付けられて早六十年
彼女の戦後は到来しない
今の戦後がやがて戦前と呼ばれる日がくるまで
同じ悲しみにこの国が覆われるまで
彼女の憎悪は膨れ続ける
慰めの言葉をわたしは知らない

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